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山口地方裁判所 昭和35年(ワ)40号 判決

原告 株式会社内山電業社

被告 山口県

主文

原告の被告に対する、被告がその職員一ノ瀬益喜に対し昭和三三年四月一五日同人が公務遂行中沖広義視運転の原告所有小型四輪貨物自動車山四す二一一五号と衝突負傷したことにつき行つた補償を原因とする損害賠償債務は、金三五万円を超える限度において存在しないことを確認する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

(原告)

原告訴訟代理人は、「原告の被告に対する、被告がその職員一ノ瀬益喜に対し昭和三三年四月一五日同人が職務遂行中沖広義視運転の原告所有小型四輪貨物自動車山四す二一一五号と衝突負傷したことにつき行つた補償を原因とする損害賠償債務金六六万九八三九円は、存在しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のように述べた。

一  被告の職員一ノ瀬益喜は、昭和三三年四月一五日午前一〇時一〇分頃山口市上宇野令六四七番地の一大和建設合資会社前の西方山口駅方面から東方石観音方面に通ずる通称東山通りと北方から大殿小路に通ずる通称豊栄通りとが交差する三さ路において、被告所有の第二種原動機付自転車ラビツト五八年式山口市免〇五三号(以下単に原動機付自転車という)を運転中、原告方の従業員であつた沖広義視の運転する原告所有の小型四輪貨物自動車山四す二一一五号(以下単に四輪車という)と衝突負傷した。ところで、被告はこれを公務執行上の負傷によるものと認め、一ノ瀬に対し療養補償費金一五万四一四七円及び障害補償金五一万五六九二円を支払い、昭和三三年六月六日から原告に対し書面、口頭又は電話等によつて数次にわたり右事故がその被用者沖広の重大な過失に基くものとして合計金六六万九八三九円の賠償請求権を有するといい、強硬にその請求を繰り返えしている。

二、しかし、原告は被告に対し右のような損害賠償債務を負担するものではない。

すなわち、本件事故は全く被告の職員である一ノ瀬の一方的過失によつてのみ惹起されたものであつて、原告の従業員である沖広には過失は存しないのである。一ノ瀬は何らの運転免許を有しないのに右事故当日前記原動機付自転車を荷台に人を乗せて運転し、北方豊栄通りから本件事故現場の三さ路にさしかゝり右折して東山通りを西方に向け進行しようとしたが、右折に際しては当然東山通りを右折する車馬に注意し、これに進路を譲つて一時停止するか又は徐行し危害の発生を防止すべき義務があるのにこれを怠り、漫然右折しようとして三さ路に飛び出したため、折柄右三さ路を西方山口駅方面から東方石観音方面に向け通過しようとしていた沖広の運転する四輪車と衝突するに至つたのである。

仮りに、本件事故の発生につき原告の従業員沖広に何らかの過失があるとしても、一ノ瀬に遥かに重大な過失の存すること右のとおりであるから、過失相殺の原理により原告の損害賠償責任は存在しなくなることが明らかである。

三、しかのみならず、地方公務員法山口県条例等関係法規には、国家公務員災害補償法第六条のごとく公務上の災害に対する補償をした場合県は職員が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得することを定めたような根拠規定は存しない。従つて、被告は抑々一ノ瀬に対する補償をしたからといつて原告に対し損害賠償請求をなし得ないことはいうまでもない。

加うるに、被告は右事故当日何らの運転免許をも有しない一ノ瀬に対し右原動機付自転車を運転して公務を遂行することを命じたのであるから、同人の本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき義務があるのはもとよりのことであるが、これを賠償したとしても、自らの違法行為を原因として本件事故をみるに至つたものである以上、さらに原告に対しその賠償を求めることはできないといわなければならない。

四、よつて、被告との間において請求の趣旨どおり前記債務の存在しないことの確認を求める。

(被告)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として次のように述べた。

一  原告主張の請求原因一の本件事故発生の事実、被告が一ノ瀬に対し療養補償費金一五万四一四七円及び障害補償費金五一万五六九二円の支払をし、昭和三三年六月六日から原告に対し右合計金六六万九八三九円の損害賠償の請求をしたこと、請求原因二の事実のうち一ノ瀬が無免許で荷台に他人を乗せて原動機付自転車を運転していたことは認める、その余の事実は争う。

二  本件事故は、原告の従業員沖広が原告方の事業の執行として四輪車を運転中、その過失によつて惹起したものである。

本件事故現場は、東西に通ずる東山通りに北方から家の立並んだ豊栄通りが丁字型に交わる、交通整理の行われていない交差点であるが、自動車運転者たる者はかような交差点を直進する際には前方を注視し、ことに豊栄通りから交差点に入る人車の有無に充分な注意を払い、道路交通法に定める車輛通行の優先順位に従うのは勿論危険を生ずる懼のあるときは何時でも急停車し得るよう減速して進行し事故の発生を未然に防ぐべき注意義務があるところ、沖広は東山通りを西方から東方に向け制限時速二五キロメートルであるのに時速四五キロメートルもの速度で進行して右交差点にさしかかり一ノ瀬の運転する原動機付自転車がすでに右交差点に入つているのを認めながら自己に進路を譲るものと考え、漫然そのままの速度でしかも道路右側により交差点を通過しようとしてにわかに危険を感じあわてて急停車しようとしたが、及ばず四輪車の前部を原動機付自転車に激突させて本件事故を起したのである。

しかして、原告はその業務のため右四輪車を運行の用に供し、沖広を運転手として使用していたものであるから、本件事故により蒙つた一切の損害を賠償すべき責任がある。そして、一ノ瀬は当時四八才の健康な男子で何らの支障なく被告の職員として勤務していたところ、本件事故により脳震盪、右大腿骨頭皮下骨折、顔面挫傷等の傷害を受け凡そ六ケ月の間入院加療をし、漸く一応治癒したけれども、右足関節の機能障害が著しく以前と同様の活動をすることは極めて困難となつたので、原告に対し本件事故による損害賠償として治療費金一五万四一四七円及び慰藉料金五一万五六九二円の支払を求め得べき権利を有する。

三  ところで、一ノ瀬は被告の公務に従事中本件事故により負傷したので、被告は同人に対し療養補償として金一五万四一四七円、障害補償として金五一万五六九二円を支払つたから、その限度において、同人が原告に対して有する損害賠償請求権を取得し、その後昭和三四年四月三日日産火災海上保険会社から自動車損害賠償責任保険金一〇万円の給付を受けたので、現に差引き金五六万九八三九円の請求権を有する。

地方公務員法・山口県条例には国家公務員災害補償法第六条のように被告が補償を行つたときは職員が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨を定めたような規定は存しないが、右は一般私法の法理上当然の事理であつて、規定がないからといつてかかる法理に基く被告の主張が不当であるということはできない。

(証拠)〈省略〉

理由

一  被告の職員一ノ瀬が昭和三三年四月一五日午前一〇時一〇分頃被告所有の原動機自転車を運転して山口市上宇野令六四七番地の一大和建設合資会社前の西方山口駅方面から東方石観音方面に通ずる東山通りと北方から大殿小路に通ずる豊栄通りとが交差する三さ路において原告方の従業員沖広の運転する原告所有の四輪車と衝突負傷したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、まず右事故について原告方従業員沖広が四輪車の運行に関し注意を怠らなかつたかどうか及び一ノ瀬に過失の認むべきものがないかどうかについて判断する。

成立に争いのない甲第三ないし同第八号証(同第五、六号証中後記措信しない部分を除く)、証人河村末市、同一ノ瀬益喜、同立山正秋(但し後記措信しない部分を除く)の証言をあわせると、本件事故現場の交差点は東西にほゞ一直線に通ずる幅員八・三メートルの東山通りと北方から幅員六メートルの豊栄通りとが交わる丁字路であつて、西方山口駅方面から東方宮野方面に向け本件交差点を通過する際には進路前方に対する見通しはさして悪くないが、道路北側に人家が立並んでいるため北方豊栄通りから本件交差点に入る車輛を予め見通すことはできず、北方豊栄通りから本件交差点に入る際にも前方の交差点はともかく予め東山通りを通行する車輛の有無を確認することは至難の状況にあること、原告方の従業員沖広は四輪車を運転して右事故当日午前一〇時過頃原告方の所用で岩国市方面に向うべく原告方を出発し、私用のため自宅に立ち寄ろうと考え、東山通りを西方山口駅方面から制限速度を二五キロメートル超過する時速約五〇キロメートルもの速度で東方本件交差点に向け進行し、本件交差点の手前約一九メートルの地点で北方豊栄通りから本件交差点に一寸入つた位置に被告の職員一ノ瀬の運転する原動機付自転車を認めたが、一ノ瀬が当然沖広の運転する四輪車の通過を待つものと思い、漫然そのまゝの速度で本件交差点を通過しようとしたところ、一ノ瀬が右折して進行しようとしたのでにわかに衝突の危険を感じあわててハンドルを右に切り急制動の措置を採るも及ばず、四輪車の右前部を一ノ瀬の運転する原動機付自転車の右前部に激突させ、運転していた一ノ瀬と後部荷台に同乗していた八幡原賢介とを跳ね飛ばし、原動機付自転車を右前輪で轢き越し、さらに附近の自転車をひつかけ、道路南側に積んであつた材木上に乗り上げて停車したこと、他方一ノ瀬は原動機付自転車の後部荷台に保護少年八幡原を乗せ山口市古熊所在の大殿中学校に向うため北方豊栄通りから時速約一〇キロメートルの速度で本件交差点にさしかゝり、左右の安全を見通すため交差点内に約一メートルばかり乗り入れて停車し、右側東方から沖広の四輪車が進行して来るのを認めたが、相当の距離があるので安全と考え、ほぼ交差点外側に沿い右折し、東山通りの南側で大体右折を終り原動機付自転車の車首を西方に向けようとしたところ、はじめて直前に沖広運転の四輪車が迫つて来たのを発見したが、すでに何らの手段も採ることができずこれと衝突したことが認められる。

右認定とくいちがう甲第五、六号証中の、沖広の四輪車と一ノ瀬の原動機付自転車との間の距離関係の記載は、同第七、八号証中の記載及び右認定の両者の速度と照らしあわせ、たやすく採用し難い。証人立山正秋の証言によれば、本件事故は一ノ瀬の側により大なる過失があるとの部分があるが、右は事実認識を証言するものではなく、同証人の意見判断に帰すべきものであり、これを以て直ちに事実認定の基礎として採用し難いものであることは勿論である。その他右認定に反する措信すべき証拠は存しない。

右認定の事実によると、自動車運転者たる者が本件事故現場のような交差点を通過するに当つては、交差する見通しの利かない豊栄通りから進入すべき車輛の有無を慮り衝突の危険を生じないよう何時でも急停車し得るよう徐行して進行し、すでに交差点に入つている車輛があるときはその進行を妨げることのないようにし、以て事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにも拘わらず、沖広はかゝる注意義務を怠り、東山通りの制限速度をはるかに超える時速約五〇キロメートルの速度のまゝ進行し、しかもすでに一ノ瀬の運転する原動機付自転車が本件交差点に入つているのにその動静に充分注意することなく漫然進行したため、衝突寸前になつて一ノ瀬の右折に気附いたが、時すでに遅く本件事故をみるに至つたものであり、本件事故の発生は沖広に主要な原因となるべき過失があるものといわなければならない。尤も、一ノ瀬は本件交差点に入つて一時停止をし東山通りを進行する車輛の有無状況を一応注視して本件交差点外側に沿い右折しはじめたものの、右折の間左右の状況ことに沖広の運転する四輪車の進行状況に注意を払わず、衝突寸前これが目前に迫つていることに気附いたものであるから、本件事故発生について一ノ瀬にも過失があると認むべきである。しかし、同人に過失があるからといつて、加害者の損害賠償責任の存在を否定することはできず、後記のとおり損害賠償額を定めるにつきこれを斟酌すべきものであるに過ぎない。

原告は一ノ瀬の無免許運転の事実が本件事故の原因であることをしきりに強調するが(一ノ瀬が無免許で原動機付自転車を運転していたことは被告の認めて争わざるところである)、そもそも事故発生についての過失とは本来事態を正確に認識して事故の発生を防止し得たにも拘わらず、注意義務を怠つたがために事態の認識若しくは判断に欠けるところがあつたことをいうものであつて、無免許運転それ自体が事故発生についての過失となるものとはとうてい考えることができない。

しかして、原告が沖広の運転していた四輪車を自己のため運行の用に供していたものであることはその自陳するところであり、前掲甲第五、六号証によれば、沖広は右認定のように原告方の業務のため岩国市に赴く途中自宅に立ち寄ろうとして本件事故を惹起するに至つたものであることが明らかであるが、たとえ私用のためであるといつても四輪車の運行自体原告のためにする運行と何ら区別すべき指標の認むべきものはないばかりか、本件事故当時の右四輪車の運行は当初から原告のためのものと断じて差し支えないと考えられるから、本件事故は原告が自己のためにする右四輪車の運行によつて惹起したものといつてしかるべきである。従つて、原告は本件事故によつて一ノ瀬が身体傷害の結果蒙つた損害を賠償すべき責任のあることが明らかである。

三  よつて、一ノ瀬が本件事故によつて蒙つた損害について検討する。

成立に争いのない甲第一号証の二、同第二号証の一、乙第四号証によれば、一ノ瀬は本件事故によつて脳震盪、右大腿骨頭及び右下腿踝部皮下骨折、顔面挫傷等の傷害を負い、事故の日である昭和三三年四月一五日から同年六月二〇日まで山口日本赤十字病院に、同日から同年一〇月二日まで山口県立中央病院で入院加療し、さらに同日から同年一二月一二日まで同病院に通院治療を続け、一応治癒したが、その間治療費として金一五万四一四八円六〇銭を要し、これと同額の損害を受けたことが認められる。

次に慰藉料について考える。右各証拠に証人一ノ瀬益喜の証言によれば、一ノ瀬は負傷が治癒したといつても右足関節の機能が殆んど失われ、長期間にわたりなお疼痛を覚えるという後遺障害を残し、従前と同一の活動をすることができなくなり、職務も外廻わりを要しない職務に担当変えとなつていることが認められ、これにその他本件にあらわれた諸般の事情を考えあわせ、一ノ瀬の本件事故による受傷を伴う精神的損害を慰藉するためには金四〇万円を以て相当とすべきである。

従つて、一ノ瀬は本件事故による身体傷害の結果以上合計金五五万四一四八円六〇銭の損害を蒙つたものであるが、前段説示のように同人にも本件事故発生について過失があるから、これを損害賠償額を定めるに当つて斟酌すべく、同人及び沖広の過失の程度・態様をくらべあわせ、原告の一ノ瀬に対する損害賠償額は右認定の損害額の範囲内において金四五万円と定めるのが妥当であると考える。

四  ところで、前掲甲第一号証の二、同第二号証の一、同第八号証、成立に争いのない同第一号証の一、証人山元公道、同一ノ瀬益喜、同牧野昌夫の証言によると、一ノ瀬は本件事故当時被告の一部門である山口中央児童相談所に勤務しており、事故当日午前一〇時頃一時保護児童八幡原を山口市立大殿中学校に入学させるべく電話で折衝をし、直ちに同人を山口市古熊所在の右中学校まで連れて行くこととなり、同相談所備え付けの本件原動機付自転車を持ち出しその後部座席に同人を乗せ、豊栄通りを下り東山通りに出る際本件事故によつて受傷したことが認められる。ゆえに、一ノ瀬は被告の公務執行の途上において本件事故により負傷したものといわなければならない。そして前掲甲第一号証の一、二、同第二号証の一、乙第四号証、成立に争いのない甲第二号証の二、証人牧野昌夫の証言によれば、一ノ瀬の使用者である被告は昭和三四年一月九日までに同人に対し労働基準法第七五条第七七条の規定に基き療養補償として金一五万四一四七円、障害補償として金五一万五六九二円を支払つたことが明らかである。

被告が原告に対し損害賠償として右支払にかゝる合計金六六万九八三九円の請求をしていることは当事者間に争いがない。しかして、労働基準法・地方公務員法等には国家公務員災害補償法第六条及び労働者災害補償保険法第二〇条のごとく公務上の災害に対する補償をした場合地方公共団体たる被告が職員の第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨の明文の規定の存しないことが明らかであるけれども、補償の原因である災害が第三者の不法行為によつて発生したものであるときは、被害者が地方公共団体の職員である場合国家公務員の場合と異り明文の規定の存在しないことを理由として補償をした地方公共団体が職員の第三者に対する損害賠償請求権を取得することを否定すべき実質的合理的根拠はないと考えられる。従つて、職員に対し労働基準法に基く補償を行つた地方公共団体は、民法第四二二条の規定を類推し、その補償の価額の限度で被害者たる職員に代位してその者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得するものと解するのが相当である。

さすれば、被告は一ノ瀬に対し右金六六万九八三九円の補償をしたことにより前段認定にかゝる同人の原告に対する金四五万円の損害賠償請求権を取得したものというべきである。

しかるに原告は、被告は何ら運転免許を有しない一ノ瀬に対し違法にも原動機付自転車を運転して公務を遂行することを命じたのであるから、同人に代位して原告に対し損害賠償請求をなし得ないと主張する。しかし、たとえそのような無免許運転を命じた事実があるにもせよ、無免許運転の事実自体本件事故発生についての過失とならないこと前叙のとおりであつて(なお、証人一ノ瀬益喜は原動機付自転車の運転については相当の自信があつた旨を証言している)、直ちに原告主張のように被告が損害賠償の請求をなし得ないものとは解し難く、のみならず却つて成立に争のない乙第二号証、証人山元公道、同一ノ瀬益喜、同牧野昌夫の証言によると、一ノ瀬の本件原動機付自転車の使用は被告の内部規則に違反するものであり、被告側では同人に対しかゝる無免許運転行為を命じた事実のないことを認めることができるから、原告の右主張が採用するに足りないものであることは明白である。

しかし、被告は昭和三四年四月三日日産火災海上保険会社から自動車損害賠償責任保険金一〇万円の給付を受けたことを自認しているので、被告の取得した原告に対する損害賠償請求権は同日かぎりこれを差引き金三五万円となつたものといわねばならない。

五  以上説示のとおりであるから、原告の被告に対する本件事故に基く損害賠償債務不存在の確認を求める本訴請求は、前示金三五万円を超える限度においてのみ正当であるが、その余の部分は失当として棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木醇一)

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